人間の脳でも、ほかよりよく眠る領域があったりする。
何年か前にチューリヒで行なわれた実験で、左手を何度も動かしたあと、被験者の睡眠中の脳を調べてみた。 すると左手を専門にする領域が、右手担当のところより深い眠りに入っていたのである。
脳は利己的だからそういうことをするのだ、とCは推測する。 よく使う場所はそれだけ重要だから、ゆっくり休ませてやり、接続を強化する。

脳を眠くする物質は50種類あるが、なんとそのすべてが、脳細胞どうしのシナプス形成を助ける働きもしている。 つまりよく使う場所には、眠りを促進する物質が集まってくることになる。
そして私たちが眠っているあいだに、その物質が細胞間の連絡を構築し、強化しているのだ。 なるほど脳は眠らなければならないわけだ。
「見張りもせず、ものも食べず、生殖活動もしない」時間がないと、脳は学習したことを覚えたり、休息を取ることができない。 神経細胞の集団がくりかえし使われ、十分な量の脳内物質が集まると、その領域が眠りはじめるのではないかとCは考える。
そして眠りについた領域がある程度増えると、脳全体が睡眠に入るのだ。 「睡眠と覚醒を同時にやれる人がいると、神経学者が昔から主張してきたのもうなずけるね」とCは言った。

ではこうした知識が、ティーンエイジャーとどう関係してくるだろう?彼らも寝ているのか起きているのか判然としないことが多いが。 ひとつ言えるのは、思春期はまだ睡眠のシステムが完成しておらず、変動があるということだ。
H大学の睡眠研究者C・Sは、眠りを後押しする視床下部の視索前野が、年齢とともに小さくなる点を指摘する。 老人の眠りが浅くなるのは、ひとつにはそのせいだろう。
だが思春期のときは、まだ十分大きいはずだ。 変動はそれだけではない。
思春期には、深くてゆっくりした脳波が最高で40パーセントも減少する。 小さい子どもが眠っているあいだにしゃべったり、歩きだしたり、あるいはおねしょをしても、医師が心配いらないと親に告げるのはそのためだ。

こうした活動は、脳波がゆったりとした波形のとき、つまり徐波睡眠で起こる。 だが思春期に入れば、そうした睡眠自体が減少するので、自然と問題太陽が顔をのぞかせたばかりの午前7時、K・Cはバックパックを肩にかけて家を飛びだした。
ここはニューヨーク・シティの北にある、カトナという小さい町だ。 こんな早い時間に表にいるのは、まだKひとりだった。

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